6月になりました。1月に立ち上がったトランプ政権は100日の「ハネムーン期間」を終えましたが、既にトランプ関税の猛威は世界中の政治経済、ひいては我々の日常生活にまで多大な影響を与えています。日々報道されるトランプ大統領の言動に、反体制的な「陰」を感じてしまうのは私だけでしょうか。権力でエスタブリッシュメントを抑圧することで支持者に喝采を浴びていますが、大国のリーダーらしからぬマウンティングに思え、その先に明るい未来が待っているようには感じられないのです。
翻って我が国では、昨年来大企業の不祥事が続き、年初の本欄で「エスタブリッシュメント崩壊の年」と書きました。今年に入ってもこの流れは止まらず、フジテレビのセクハラ問題を始め、ホンダ等名門企業の役員が「不適切な行為」を理由に突然退任するなど、米国とは異なり内部崩壊の様相を呈しています。このような我が国の組織の問題を網羅的に分析した「日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか」(太田肇同志社大学名誉教授著)を読む機会がありました。私自身いわゆる「JTC(伝統的日本企業)」に30年以上身を置き、そのなかで感じて来た様々な疑問が本書を読んで体系的に繋がり、爽快な気持ちになりました。
日本の組織は、戦前は「富国強兵」、戦後は「高度成長」を共通目的にした共同体として、組織に所属するメリットとデメリットを比較し、メリットが大きいから所属員が従属し、成立して来ました。近年は組織に所属するメリットが小さくなり、デメリットの方が大きくなっているにも関わらず、組織側が変わらず、次々と日本型組織がドミノ倒しのように崩壊しているのだと。太田教授はその原因を「IT化」と言い切ります。メールやSNS等の発達により、組織内部の情報は瞬時に共有化され、かつて部署間あるいは上司部下の間にあった「情報の非対称性」は存在しなくなりました。組織に所属することにより得られるメリットに価値を感じられなくなればデメリットの方が大きくなり、所属員は離脱して行きます。近時表面化している不正行為やハラスメントは、単発的な事象ではなく、組織内部で長年続いて来たものだと思われますが、各企業は「個別事象」として対症療法に終始しています。この内外温度差が組織の崩壊をさらに加速させているのでしょう。
ITに従事し、お客様にIT化を提案する立場としては、太田教授の指摘は重く響きます。IT化は業務の効率化や利便性の向上をもたらしますが、決して良いことばかりではありません。DX、AIといった先端技術をご提案するばかりで、リスクやデメリットをご説明出来ていない事例も多々見受けられます。IT業界に身を置くものとして、ITが健全に発展するためには、利便性向上の裏に潜む課題をわれわれ自身が理解し、真摯に向き合ってことが責務、と思うのです。
廣瀬